2025年9月、CPAエクセレントパートナーズ株式会社は、国内男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」のキャリアマネジメントプロジェクトパートナーに就任いたしました。このプロジェクトは、会計ファイナンスのスキルを中心とした「学びの支援」にとどまらず、プロアスリートに備わっている無限の可能性を解き放つことで、スポーツビジネスの持続的な発展に寄与することを目指しています。

そして今回は、本パートナーシップの締結を機に、B.LEAGUEの島田慎二チェアマンと、CPAエクセレントパートナーズ代表の国見健介による特別対談を実施。スポーツのプロリーグに期待される「感動」に「ビジネス」の視点が不可欠な理由、次世代のリーダー育成に必要な戦略について、情熱的かつ建設的な議論が交わされました。会計ファイナンスの力で描かれるスポーツ界の壮大な未来図を、対談の全容とともにお届けします。


B.LEAGUEの情熱とCPAのミッションが共鳴した瞬間

──まずは国見さんに質問です。CPAエクセレントパートナーズは、2025年4月にJリーグとサポーティングカンパニー契約を締結したように、スポーツ界を対象にした「会計ファイナンス人材の輩出」に注力してきました。今回、B.LEAGUEのキャリアマネジメントプロジェクトパートナーに就任した背景について、改めて詳細をお聞かせください。

国見
もともと私たちは公認会計士の育成に特化したスクール事業を柱としてきましたが、2020年10月に無料学習プラットフォーム「CPAラーニング」の展開を始めたことがひとつの契機になりました。シングルマザーのリスキリング支援などを行い、専門家以外にも知識を提供することの社会的意義を強く実感するようになった経緯があります。

この活動を拡大させる過程で、Jリーグ参入を目指すクリアソン新宿のビジョンに共感して、約3年前にパートナーシップを締結。そこでスポーツ界との接点が生まれました。さらにJFA様(日本サッカー協会)とも連携させていただき、アスリートのキャリア支援に取り組む中で、現役選手やクラブスタッフに向けて会計ファイナンスの知識を学ぶ機会を提供することに明確なニーズがあることを確認しました。

その後、知人を介した会食で島田チェアマンにお会いしました。バスケファンの方々はご承知だと思いますが、島田さんはB.LEAGUEのビジネスモデル改革に尽力してきた存在であり、選手やクラブスタッフに対しても経営やキャリアマネジメントを積極的に学んでほしいと考えておられる。その根底にある熱意は、まさに我々が推進してきた「人の可能性を広げる」という取り組みと深く共鳴するものでした。ですから「ぜひ協力させてください」と、迷いなくパートナーシップを締結させていただいた次第です。

──島田さんはCPAエクセレントパートナーズとのパートナーシップにどんな意義を見出しておられますか?

島田
大前提として、多くのアスリートと同じように、バスケ選手も現役でいられる時間は長くありません。40歳を過ぎても現役を続けられる選手はひと握りですし、引退後も数十年と続く長い人生を豊かに過ごすためには、幅広い知識を身につけておく必要があると思っています。

バスケ選手の場合、チームの公式練習は1日2時間ほど。それ以外の時間を「学び」に費やし、もともと備わっているアスリートとしての特別な経験値にビジネスの知識を付け足すことができれば、引退後に選べるキャリアプランが広がっていくでしょう。CPAさんとの取り組みでは、そういう機会を作っていきたいと考えています。

──邪推かもしれませんが、「いやいや、現役選手は後先を考えず、競技のスキルアップだけに全集中すべきだ」というスタンスの方もいそうです。しかし、島田さんは、「セーフティーネットを築くこと(学びを通じて引退後の準備を整えること)」が、現役選手のパフォーマンス向上に寄与するとお考えですか?

島田
まさに後者の考え方が正しいと信じています。年俸数十億を稼ぐようなトップ選手であれば、引退後の生活を心配する必要はないかもしれません。しかし、ほとんどの選手はそうではありません。「引退したらどうしよう」という漠然とした不安を抱えたまま、目の前のプレーに100%集中できるでしょうか? 私は難しいと思います。

むしろ、自分の中に確固たる後ろ盾があり、引退後の具体的なキャリアプランを描けている。その安心感があるからこそ、将来への不安から解放され、今この瞬間の競技に集中して身を投じることができるようになるのではないでしょうか。

国見
私も同感です。将来像を明確に描くことができれば、漠然とした不安が消え、今やるべきことに集中しやすくなりますよね。さらに言えば、スポーツビジネスの「仕組み」を理解することも選手のパフォーマンスに好影響を与えると思っています。

スポーツは、単に選手が試合で結果を出すだけで成り立っているわけではありません。応援してくれる「ファン」がいて、選手を支える「チーム」がある。そうした様々な要素が一体となって、スポーツ界全体が回っています。

この仕組みを深く理解できれば、選手としても、自分自身の価値を最大化するための、多様な視点が得られるのではないでしょうか。例えば野球の新庄剛志さんのように、プレーの成績(本業)だけでなく、ファンを喜ばせるパフォーマンスにも力を入れるなど、幅広い形でチーム全体に貢献するという道も見えてきます。


アスリートの人生とクラブ経営に光を灯す知識武装

──選手が会計やファイナンスの知識を学び、例えば所属クラブの決算書を読めるようになると、その後のキャリアにはどのような可能性の広がりが生まれるでしょうか?

島田
まず、自分の収入と支出をどう管理するかという「個人」の視点が養われます。さらに重要なのが、給料の源泉であるクラブの運営がどう成り立っているかを理解する「経営」の視点です。B.LEAGUEでは全チームの決算書公開と監査が義務付けられていますから、クラブの収益構造、つまりスポンサー収入に依存しているのか、チケット収入でファンに支えられているのかが、数字として明確に分かります。

そうした実態を理解することで、スポンサーの存在意義や、ファンからの支援の本当の価値が、より実感できるようになるはずです。「何となく応援してくれているファンへの感謝」が、「自分たちのプロ活動を、これだけの収益で支えてくれている」という、リアリティと数字に基づいた感謝へと変わるのです。選手たちがより成熟し、「自分たちはビジネスの関わりの中でプロ生活を送っているのだ」という当たり前の事実を、はっきりと認識できるようになる。それが最大の収穫だと思います。

国見
そうですね。そうしたビジネスや会計の理解が現役時代から広がっていくと、競技生活にも、引退後のキャリアにも、文字通り「全てに生きてくる」と思います。そして私は、今回の取り組みがより浸透していけば、アスリートのキャリアだけでなく、日本の「新卒一括採用」という仕組み自体が変わっていく可能性すら感じています。

海外では、大学卒業後、さらに専門知識を学んでから就職したり、30歳になってから大学院で学び直したりすることが主流です。日本はまだ大学からすぐ就職するパターンが多いですが、30歳や35歳からでも、その先のキャリアは30年、40年と続きます。一度立ち止まって学び直し、キャリアを広げていくという流れは、今やアスリートだけでなく日本全体に必要な視点ではないでしょうか。

これまでのアスリートのセカンドキャリアは、競技関係の仕事、飲食店の開業、あるいはコミュニケーション能力を活かした営業職など、どこか限られたルートが多かったように思います。しかしこれからは、「全職種から選んでいい」という時代になっていきます。30歳からキャリアを大きく変えることが、ごく当たり前になっていくはずです。

──島田さんは、会計ファイナンス知識の習得によって、選手やクラブ関係者がどのような役割を担っていくことを期待されていますか?

島田
引退後の進路として、指導者やチームを作るGMなど、バスケットボールに直接関わる道はもちろんあります。しかし、B.LEAGUEはまだ発足から浅く、これから多くの選手が引退を迎える中で、ビジネスサイドに進む道はまだ十分に整備されていません。

私たちもバスケ界で活躍できるキャリアの受け皿を用意しようと努めていますが、まだ足りていないのが現状です。だからこそ、選手自身に勉強していただき、選択肢を増やしてほしい。会計ファイナンスの知識や、社会人としての基礎を学ぶことは、バスケ界に残るにせよ、異業種に進むにせよ、引退後の安定した生活を支える強力な武器になります。

また、視点を変える必要もあります。現在、私のようなリーグの経営ポジションは、ビジネス側からスポーツを捉えている人間が務めています。今後はその逆、つまりアスリート側からビジネスを学び、競技を深く知る強みを活かして、こうした経営ポジションに就く人がどんどん出てきてほしい。それを強く期待しています。

クラブのスタッフについても、言うまでもありません。彼らはスポーツをビジネスとして成功させなければならない立場です。営業、チケット販売、ファンクラブ運営など、どんなマーケティング手法を使うにせよ、会計ファイナンスの知識はその土台となります。「売上(トップライン)を上げる」ことだけを考えるのではなく、「経常収支(ボトムライン)がどうなっているか」という経営視点を持つためにも、今回の取り組みは不可欠です。

国見
B.LEAGUEはこれから各クラブがアリーナ経営といった、より大きな事業にも取り組んでいくでしょう。巨額の投資を行い、長期的な採算性を見据えながら、スポーツ以外の分野とも連携し、アリーナを核に地域を盛り上げていく。そうした未来を実現するには、関わる全員が会計ファイナンスの最低限の知識を持つことが大前提となります。

島田
おっしゃる通りです。公認会計士や税理士の資格を今から取得するのは非常に難易度が高い。しかし、資格の有無に関わらず、勉強をして一定の知識を持っているかどうか。それ自体が、今後非常に重要になってくると確信しています。

──国見さんが挙げたアリーナ経営にも関連しますが、B.LEAGUEは2026-27シーズンから新トップカテゴリー『B.LEAGUE PREMIER』が始まります。この審査では、アリーナ基準だけでなく、売上高12億円以上といった非常に高い経営基準も設定され、まさにリーグ全体が「厳格な数字の管理」を求められるフェーズに入ったと思います。各クラブも意識が高まっていると拝察しますが、その経営基盤を支える会計のプロフェッショナルは、現場ではまだ足りていないのでしょうか?

島田
おっしゃる通り、圧倒的に足りていません。そして、これから絶対に増えてくるべき領域です。

現在、リーグ側には、各チームの経営状態を監査し、ライセンスを付与する審査機関としての機能があり、そこには公認会計士も社員として在籍しています。しかし、リーグはあくまで「審査側」です。本当に大切なのは、各クラブが「実行側」として、日頃から高度な経営管理を行っていくことに他なりません。そういった意味で、プロフェッショナルな会計ファイナンス人材を内部に抱えているクラブは、ほぼないのが現状です。

近年はB.LEAGUEの成長性に期待したM&Aにより、大企業の資本が入り、経営基盤の強化に向けた動きが活発化しつつあります。しかし、会計ファイナンス人材の重要性は認識していても、まだ採用という具体的なアクションに踏み切れているクラブは少ないのです。今後は、選手が引退後にそうした道に進むこと、クラブスタッフが学び直してそのポジションに就くこと、そしてCPAのコミュニティにいらっしゃるような専門家がクラブ経営に来ていただくこと。そんな展開ができたら最高ですね。

国見
島田さんがおっしゃったように、アスリート側からの流れだけでなく、会計ファイナンス人材側からスポーツ界へ関わるという流れを作ることも重要ですね。会計ファイナンスの知識を持つ方で、スポーツを盛り上げたいと思っている方は必ずいます。スポーツの発展が彼らの活躍の場を広げ、この両軸からの理解と関与が深まることが理想的な姿です。


学習の障壁を越える段階的なアプローチ

──CPAエクセレントパートナーズから提供される「会計ファイナンスのスキル習得プログラム」は、具体的にどのような内容から始まっていくのでしょうか?

国見
まずは現役選手が最も関心を持ちやすいテーマから入るのが最善だと考えています。例えば、ご自身のお金の管理。税金の仕組みや、資産運用といった基礎知識は、多くの方が興味を持つはずです。

そこを入り口とし、より興味を持った方には、ご自身が所属するスポーツ界、つまりクラブチームやリーグ全体のお金の流れ(スポーツビジネス)への理解を深めていただく。このように、興味の度合いに応じたステップを考えています。最初のフェーズでは、まず興味を持つ方を増やし、その方々が学びやすい環境を整えることが非常に重要です。

──既に「CPAラーニング」で約1,700本の学習コンテンツ動画を公開していますが、今回の取り組みは、その膨大な知識体系を、アスリート向けにカスタマイズして提供するイメージでしょうか?

国見
そうですね。現在、アスリート向けの専用プログラムを開発中で、まもなくリリースできる段階に来ています。まずはアスリートの方々が最初に学びやすく、興味を持ちやすいコンテンツをしっかりと用意します。その上で、もしプラスアルファで深く学びたくなった方は、既存のCPAラーニングの膨大なコンテンツも活用いただけます。練習以外の空き時間などで、少しずつ触れる方が増えてくれば嬉しいですね。

――会計の基礎知識として「簿記」は避けて通れない分野だと思いますが、数字に苦手意識がある初学者の方はアレルギー反応を起こしてしまう可能性もありそうですね……。

国見
プロアスリートは日頃から競技におけるご自身の成績やコンディション調整を通してシビアに数字と向き合っているはずなので、むしろ簿記にハマる人も多いと思いますよ。とはいえ、いきなり「仕訳(しわけ)」のような技術的な詳細から入ると、学ぶこと自体の「面白さ」が半減してしまう可能性もあります。

だからこそ、『アカウンティング思考(会計的な考え方)』や『ファイナンス思考(金融的な考え方)』といった、物事の捉え方や考え方そのものから入っていただく。そして、その本質的な面白さに気づき、興味を持った方が、必要に応じて技術的な部分(簿記)を学んでいく。その順序が、学びを継続する上で効果的だと考えています。

──島田さん、B.LEAGUEでは2026-27シーズンからサラリーキャップ(チーム年俸総額制限)が導入されます。そういった仕組みを理解する上でも、選手が会計ファイナンスの知識を身につけることのメリットは大きいですか?

島田
そうですね。サラリーキャップはチーム全体の年俸総額に対する制限ですから、選手が個人として必要な会計知識とは少し論点が違うかもしれません。

しかし、これは選手のキャリア戦略には密接に関わってきます。つまり、「どのチームに行けば、自分の年俸が相対的に広がる可能性があるか」という判断です。これまでは潤沢な資金があるクラブが、スター選手に高額報酬を支払うことができました。しかし今後は上限が設けられるため、すでにビッグネームが揃っているクラブでは、自分が望む年俸を得るために移籍を選択する、といった戦略的な判断が来年以降は確実に増えるでしょう。

とはいえ、こうしたビジネス戦略の話も、国見さんが先ほどおっしゃったように、いきなり簿記や資格の話から入っては難しいでしょう。

選手たちが絶対に興味を持つ、リアリティのあるテーマは、やはり自分たちに直結するお金の話です。税金、節税、資産運用。こうした身近なテーマから始めるべきです。まずは自分ごととして学んでもらい、そこから「この知識がクラブのビジネス視点や、引退後のキャリアにどう繋がるか」を理解してもらうことが大切です。

何より、バスケットボール選手は、非常に頭が良いんです。あれだけ大きな体の5人が、コート上で瞬時にサインプレーを実行する。常に攻守が入れ替わり、複雑なパターンを同時に処理し続ける必要がありますから、賢くないと絶対にできません。体育会系というイメージで一括りにされがちですが、勉強したときに、たとえバスケ業界に残らなくても社会で活躍できる素地は間違いなくある。それほどポテンシャルのある人材が揃っています。ぜひこの機会に学び、自らの手でチャンスを掴んでほしいと心から思います。


アスリート経営者がリーグの未来を創る

──バスケ業界には、現役中に公認会計士試験に合格し、2025年9月よりB.LEAGUE理事も務める岡田優介さんという、理想的なロールモデルがいらっしゃいます。岡田さんとコラボレーションして今回のプロジェクトを推進するプランはありますか?

国見
当然あります。岡田さんは公認会計士の資格と実務経験、そしてプロチームの経営に携わった経験を併せ持つ、まさに最高の当事者です。彼が肌で感じている課題意識やビジョンを、B.LEAGUEの皆様に伝えていただくような企画は、今後ぜひ実現したいです。

――やはり今後は第2、第3の岡田さんが生まれていくことが、リーグの発展にとって重要なのでしょうか。

島田
その通りです。岡田さんの意見は、競技のルール作りといった側面だけでなく、選手のセカンドキャリアをどう構築していくかという議論において、非常に重要です。 このプログラムを推進する上でも、ぜひ力を貸してほしいと願っていますし、実際に「アスリートの心に響くのはどんな切り口か?」といった相談は、すでにさせてもらっています。

国見
先ほど「現役中は競技に集中した方がいいのでは」という議論が出ましたが、岡田さんの事例は、それだけが答えではないことを明確に証明していますよね。サッカーの中田英寿さんも、現役中に税理士の勉強をされていたと聞きます。「トップアスリートも、競技と並行して“学び”に取り組んでいた」。こうした事実を、岡田さんのような当事者が伝えていくことには、非常に大きな説得力があると思います。

──岡田さんは一般の方々を対象にした会計塾を個人的に開催されてきましたが、今回の取り組みも、いずれ選手やクラブだけでなく、ファンの方々を巻き込む形に発展していく可能性はありますか?

国見
そうですね。ファンの方々にも、クラブがどのようなお金で回っているのかを理解していただくことは非常に重要です。日本には「推し活」の文化が根付いていますから、チームの財政状況が見えるようになれば、自分たちの応援がチームをどれだけ支えているか、その意識もより強くなります。「ファンと選手が一体となってチームを大きく、強くしていく」という、より強固な関係性が生まれると期待しています。

島田
最も大事なのは「ディスクロージャー(情報公開)」だと考えます。資金を出してくださっているファンやスポンサーに対して経営状態を説明することは、株主総会にも似た信頼獲得のプロセスです。仮に試合に勝てない状況が続いたとしても、「何がどうなっているのか」を明らかにすることで、ファンやスポンサーから「この組織は、自分たちのお金や支援を預けるに足る存在か」と正しく評価していただけるようになります。

私が14年前に千葉ジェッツの社長に就任した時、第1期の決算はボロボロでしたが、私はそれを全て公開しました。皆様からいただいた資金の使い方や戦績がどうなっているかを、ありのまま公開する。スポーツ界で1年目から赤字を晒すのは恥ずかしいことかもしれませんが、それよりも「あのチームは危ない、潰れるのでは」と不信感を抱かれる方が問題です。

全てを出すことで、地元企業の皆様の信頼を得られると考えたのです。その情報公開は今、B.LEAGUEのルールにもなっています。クラブのスタッフも、アスリートも、そしてファンの皆様も。それぞれが立場は違えど、お金や会計の勉強をすることは、個人の資産運用という視点も含め、日本全体にとって非常に重要なことだと考えています。

国見
川淵三郎さん(JリーグとB.LEAGUEの初代チェアマン)や島田さんなど、サッカーもバスケも、強烈なリーダーがいたからこそ短期間で盛り上がったのだと思います。そのリーダーシップとは、全体を見渡し、今何が必要かを的確に実行する力です。

会計ファイナンスを学ぶことは、専門家になること自体が目的ではありません。あくまで土台の知識を学ぶことで、全体像が見えるようになる、ということが最も重要です。

その土台ができて初めて、次の島田さんのようなリーダーが生まれるかもしれませんし、あるいは一度スポーツ界を離れてマーケティングやファンドの専門家になった人が、再びスポーツ界に戻ってきて貢献する、という道も拓けるでしょう。土台を学ぶことの効果は非常に大きい。1年、2年ではなく、3年、5年、10年と続けることで、振り返ったときに必ず大きな変化が生まれていると確信しています。


B.LEAGUEを海外のスーパースターが憧れる舞台へ

──今回の取り組みから少し視点が変わるかもしれませんが、現在の河村勇輝選手のように、B.LEAGUEのスター選手がアメリカのNBAに挑戦する姿を見たがっているファンも多いと思います。例えばUSCPA(米国公認会計士)の資格を取得すれば、そうした選手を支える代理人(エージェント)として、日米の架け橋になれる可能性もあるのでしょうか?

島田
それは、アスリート自身がそうなる可能性も、クラブ関係者がそうなる可能性もあると思います。もちろん、世界を相手にするスーパーエージェントのレベルになれば、弁護士資格や国際税務など、極めて高度な専門性が求められます。簡単な道ではありませんが、そうした人材が将来出てくることは期待できますね。

国見
また、逆の視点も重要です。最終的な理想としては、B.LEAGUE自体が、海外の一流選手から「日本でプレーしたい」と憧れられるリーグになることです。そのためにはリーグ全体に、そうした選手を招くだけの経営力と事業規模が不可欠です。今回の取り組みが、そうしたリーグの発展にもつながっていければと思います。

島田
私も同じ考えです。国見さんのおっしゃる「海外のスターが来たいと思うリーグ」になるためには、マーケット自体がスケール(拡大)しなければなりません。そして、その土台となるのは、一つ一つのクラブの経営が強くなることです。B.LEAGUE全体の価値は、個々のクラブの経営の総和ですから。その強い経営を実現するために不可欠なのが、経営感覚であり、その核となるのが会計ファイナンスの知識なのです。

こうした話は、スポーツビジネスに携わる人間にはダイレクトに響きます。アスリートには少し翻訳が必要かもしれませんが、「この世界で成功するには何を学ぶべきか?」「将来クラブの社長になれるか?」と聞かれたとき、これまでは「英語」と答えることが多かった。しかし、今回の取り組みの重要性を深く考えると、選手たちが語学の前にまず学ぶべき、本当に大事なことだと感じています。

国見
本当にそう思います。日本にはまだ、スポーツや教育といった分野を、お金と切り離して考える価値観が根強くあります。「神聖なスポーツは金儲けの手段ではない」という考え方です。しかし、良い教育を提供し続け、スポーツを本気で盛り上げていくためには、健全なお金の循環がなければ絶対に実現できません。その両者を切り離す文化を変え、リテラシーを底上げするためにも、会計やファイナンスの考え方を広く浸透させることには、非常に大きな意義があると考えています。


「感動」と「ビジネス」の絶対的関係

──B.LEAGUEは、2050年に向けて「スポーツを通じて日本社会の活力に貢献し、若い人たちが明るい未来を描ける状況を作る」という長期ビジョン『感動立国』を掲げています。その「感動」の追求と、シビアな「お金(経営)」の追求は、決して対立するものではないのですね。

島田
まさしく「両輪」です。もはや補助金だけでスポーツが存続できる時代ではありません。スポーツを未来へ継続的に残していくためには、経営としてしっかり自立させることが不可欠です。ビジネスとして成り立っているからこそ、選手の夢や報酬が約束され、彼らが成長するための環境にも投資ができるわけです。

その経営基盤の上に、アリーナが建ち、クラブが地域に熱狂を生み出す。その熱狂が全国で50や60の「点」となり、やがて「線」となり、「面」となって広がっていく。そうして、バスケやスポーツを通じて日本社会全体の活力に貢献すること。それこそが、私たちが目指す2050年の「感動立国」です。 つまり、「わくわくする感動」を生み出すために「ビジネス・ファイナンス」は絶対条件なのです。

振り返ると、私がスポーツビジネスに取り組み始めた頃は、「金儲け目的か!」と随分叩かれたものですが、この必要性を信じてずっとやり続けてきました。最近ようやくスポーツビジネスという概念が世の中に認知され、叩かれることも少なくなり、今こうして(会計の重要性について)お話ができること自体を嬉しく思います。

国見
それは、島田さんが信念を貫き、何より結果を伴わせてきたからこそですね。もし結果が伴わなければ、「やはりスポーツと金は両立しない」と言われていたはずで、責任は非常に重大だったと思います。

「感動立国」には多くの要素が詰まっていますが、これだけITやテクノロジーが進んでも、生身の人間が本気で競い合う姿が与える「リアルの感動」は、決して色褪せません。むしろ、その価値はますます上がっていくでしょう。バスケットボールも他のスポーツも、これからは地域に根ざし、スタジアムを中心として地域全体を盛り上げる中核になっていくはずです。試合の感動、スタジアムに家族で訪れる感動……スポーツが持つポテンシャルは計り知れません。島田さんがB.LEAGUEで牽引されているこの流れが、日本全体のスポーツ界に広がっていけば、本当にすごいことになりますね。

──一方、CPAエクセレントパートナーズがスポーツビジネスに関わっていくことは、グループ全体のミッションにどのように繋がっていくと捉えていらっしゃいますか?

国見
私たちのミッションは、一貫して「人の可能性を広げ、人生を豊かにする応援をする」ことです。これまでは主に会計ファイナンスという分野で、人や組織の可能性を広げる形で実践してきました。

この「人の可能性を広げる」という核となる考え方は、スポーツの世界にも、あるいは教育の機会均等といった分野にも、そのまま通じるものです。専門性を持つ私たちがB.LEAGUEと重なり合うことで、社会全体への貢献価値は飛躍的に大きくなると考えています。

ただし、私たちはこれを単なる一方的な「社会貢献」で終わらせるつもりはありません。持続可能な取り組みにするには、健全なビジネスとしての好循環が不可欠です。中長期的に、スポーツ界が会計ファイナンスの力を通じてより発展すれば、それは会計ファイナンスという専門領域そのものの社会的な評価を高めることにも直結し、業界全体の発展につながります。つまり、私たちにとっても、スポーツ界にとっても、そしてファンや社会全体にとっても良い。まさに「三方よし」の取り組みになる。これこそが、私たちのビジョンと重なる部分です。

──ありがとうございます。最後に改めて、選手やスタッフ、そして会計ファイナンス人材やファンの方々に向けて、おふたりから今後の抱負とメッセージをお願いします。

島田
まずはB.LEAGUEの選手たちに、学ぶことの価値をしっかり伝えることが私たちの務めです。選手たちに学びの門戸を開放し、未来に備える環境を整えていきます。

また、会計や決算は、今やファンの皆様も注目する数字です。岡田理事の力も借りて、数字の意味を分かりやすく解説するなど、ファンの方々にとっても会計ファイナンスが身近になる工夫を、CPAさんとのパートナーシップを活かして進めていきたいと思います。

国見
私はスポーツ界の人間ではありませんが、外から見ている立場として、アスリートの皆様はやはり「ヒーロー」です。子供から大人まで、誰もが尊敬の眼差しを向ける特別な存在です。

その皆様が、現役中に輝くだけでなく、引退後も社会で輝き続けることができれば、それは日本全体にとって、とても夢のある話だと思います。そして、その姿がまた、新たなスポーツファンを増やしていくはずです。

ファンの皆様も、スポーツから感動を受け取るだけでなく、その感動をより大きくするために一緒にできることがある、という視点を持っていただけると嬉しいです。そして、会計ファイナンス人材の皆様。私たちが持つ専門知識は、会社内だけでなく、スポーツやエンタメなど、あらゆる分野に貢献できる力です。どうかご自身の可能性にも気づいてほしい。そうした意識を高めていくことで、より素敵な未来を創っていけると信じています。