元日本代表のプロバスケットボール選手にして、現役中に公認会計士試験に合格した岡田優介氏。トップアスリートの視点と、ビジネスパーソンの視点。この二つを高次元で併せ持つ稀有な存在であり、引退した現在はB.LEAGUE理事、3人制バスケチーム「TOKYO DIME」オーナー、スクール運営など、多岐にわたるフィールドで手腕を振るっています。

異色の二刀流キャリアはいかにして生まれたのか。そして、会計の知識や資格がもたらしたメリットとは? アスリートのキャリア支援にも力を入れるCPAエクセレントパートナーズ株式会社 代表の国見健介がインタビュアーとなり、岡田氏の軌跡と独自の思考に迫りました。


原動力は悔しさ。現役アスリートが難関資格に挑んだ理由

国見
実は岡田さんと私、最初の出会いはかなり昔にさかのぼりますよね。

岡田
そうですね。私がまだ公認会計士試験の受験生だったか、あるいは2010年に合格して間もない頃だったと思います。少人数の食事会に参加させていただいたのが最初でした。

国見
六本木の中華料理店でしたよね。当時から現役のプロバスケ選手が公認会計士を目指しているという噂は業界内でもとどろいていて、私も興味津々でした。円卓を囲み、これからのスポーツ界や会計士の可能性について語り合ったことを記憶しています。

岡田
あの時は、業界の第一線で活躍されている先生方に囲まれて、緊張しながら座っていました(笑)。
その後、10年以上の時を経て、CPAエクセレントパートナーズさんとB.LEAGUEがパートナーシップ契約※を結んでいるご縁で国見さんと再会できるのは、本当に感慨深いものがあります。
(※CPAエクセレントパートナーズはB.LEAGUEのキャリアマネジメントプロジェクトパートナーに就任しており、選手・スタッフへの会計ファイナンスのスキル習得支援を通じ、ビジネスパーソンとしての成長やキャリアの可能性を広げる活動を行っています。)

国見
岡田さんは2025年6月に現役引退を発表され、現在はB.LEAGUEの理事やTOKYO DIMEのオーナーとして活躍をされています。今日はその原点から未来までを掘り下げたいと思いますが、まずお聞きしたいのは、公認会計士を目指した理由です。B.LEAGUE発足前で、まだバスケットボールが今ほどメジャーではなかった当時、現役選手でありながら、なぜあえて最難関資格のひとつを目指そうと思われたのでしょうか?

岡田
一番の原動力は、悔しさでした。当時の日本のバスケットボール界は、プロリーグがあったとはいえ、世間一般にはほぼ知られていない状況でした。自己紹介をしても、「え? 日本にプロなんてあるの?」という反応が返ってくることもあったくらいです。自分はずっとこの競技を愛して、人生を懸けてやってきた。それなのに、業界全体が停滞していて、光が当たらない。それがすごくもったいないし、悔しかったんです。

国見
バスケ業界の未来を変えたいと思ったわけですね。

岡田
はい。学生時代から、もっとこの業界を良くしたい、何かを変えたいという思いは常にありました。でも、一選手が声を上げても、社会はなかなか振り向いてくれません。現状を変えるためには、情熱だけでなく、社会を動かすための力が必要だと痛感しました。

国見
そこで目をつけたのが公認会計士だったと。

岡田
何か強力な武器はないかと考えたとき、公認会計士という選択肢が浮かびました。社会的にも信頼されており、経済界にも影響力がある資格です。これを手にすることで自分の発言に耳を傾けてもらえるようになり、ひいてはバスケ界を変えるための武器になるのではないかと考えました。
セカンドキャリアの安定のためというよりは、現役選手としてバスケ界に貢献するためのチャレンジでした。当時は若かったので、誰もしていないことに挑戦するエネルギーがあったんです。


隙間時間を制して、未来への投資に充てる。岡田流・タイムマネジメント

国見
トップレベルのアスリートとしての過酷な練習や試合がある中で、一体どうやって勉強時間を確保していたのでしょうか?

岡田
我ながら「よくやったな」と思います。私は大学時代も練習が厳しくて有名な青学バスケ部に所属しており、多くの時間を練習や試合に費やしていて、それ以外の時間はほぼ全て勉強に費やす生活を徹底していました。

国見
具体的にはどのようなスケジュールだったのですか?

岡田
遠征先のホテルではもちろん、移動中のバスや飛行機の中でも、少しでも時間が空けばテキストを開いていました。一般の受験生の方のように、机に向かって1日10時間勉強するような、まとまった時間は取れません。だからこそ、隙間時間の活用と効率には徹底的にこだわりました。「今日は移動の1時間でこの章を終わらせる」「練習前の30分でこの問題を解く」といった具合に、細切れの時間を積み上げていったんです。

国見
その集中力と自己管理能力は、やはりアスリートならではのものですね。

岡田
そうかもしれません。スポーツ選手は常に、試合本番を見据えて、そこから逆算して「今日やるべき練習メニュー」を決めます。 公認会計士試験も全く一緒なんです。試験日という絶対的なゴールを設定し、そこに向かって逆算してスケジュールを組み、日々のタスクを遂行する。この逆算思考のプロセスはスポーツも勉強も全く同じなので、意外とスムーズに頭を切り替えられました。

国見
当時、チームメイトや周囲の反応はどうでしたか?

岡田
驚かれましたね。「バスケに集中しろ」という無言の圧力も、最初はあったかもしれません。でも、誰よりも練習して、試合で結果を出せば、誰も文句は言いません。むしろ、「変わった奴だけど、やることはやっている」と認めてもらえるようになりました。


3人制バスケチーム設立と経営のリアル

国見
その後、2014年には現役選手でありながら、3人制バスケットボール(以下、3×3)のプロチーム「TOKYO DIME」を設立し、オーナーに就任されました。これも異例のキャリアですね。

岡田
実は、最初は自分から手を挙げて始めたわけではないんです。公認会計士試験に受かった後、選手会を立ち上げたり、飲食店を作ったりと、バスケ以外にもマルチに活動していました。そうした中で、ビジネスで繋がりのあった方から、3×3という新しい競技が日本に本格上陸するタイミングでチームを持ってみないかと相談されたのがきっかけです。

国見
最初はどう答えられたのですか?

岡田
お断りしました(笑)。現役選手をやりながらチーム運営をするのは荷が重すぎますし、中途半端な責任は持てないと思ったからです。でも、バスケ界を盛り上げるため、そして競技普及のために力を貸してほしいと熱心に説得され、それならばと引き受けました。当初は全く事業にするつもりはなく、オフシーズンの夏に集まって楽しくバスケをするサークルのような感覚だったんです。

国見
それがどうして本格的な事業に?

岡田
2年目、3年目と続けるうちに、3×3のリーグが本格化し、競技レベルも上がっていきました。そうなると、ちゃんとしたプロチームとして運営しなければ勝てなくなります。 選手たちの練習環境の整備、遠征費、スポンサー獲得……気づけば経営者として奔走していました。

国見
実際に経営を担ってみて、会計士の知識は役立ちましたか?

岡田
もちろんです。資金繰りや決算業務など、実務的な部分で役立ったのは言うまでもありません。ただ、一番大変で、勉強になったのは「人」の部分ですね。組織が大きくなればスタッフを雇い、育てなければなりません。毎日、毎月のように何かしらのトラブルが起きます。資金ショートの危機や、人間関係の揉め事……そうした泥臭い経営の現場を現役中に経験できたことは、今のB.LEAGUE理事としての仕事にも大きく活きています。

国見
プレイヤー、オーナー、そしてB.LEAGUE理事と様々な顔を持つ中で、公認会計士資格や会計ファイナンスの知識は、岡田さんのキャリアにどう作用しましたか?

岡田
最大のメリットは、やはり信頼を得やすいことです。アスリートが引退後にビジネスの世界へ行くと、「体力はあるけれどビジネスは分からない人」といったステレオタイプで見られがちです。土俵に上がる前から、マイナスからのスタートになることもあります。 しかし私の場合は、公認会計士試験に合格したことによって、相手の見る目がガラリと変わりました。

国見
ビジネスの場で信用されやすくなりそうですね。

岡田
はい。数字への理解があり、論理的に話が通じるという信頼がベースにある状態でスタートできるんです。これはビジネスにおける強力なファストパスと言えます。門前払いされることなく、決裁権のある方と直接お話しできたり、対等なパートナーとしてプロジェクトを進められたりする。私が現役中に様々な事業を展開できたのも、この信頼というショートカットがあったからこそだと確信しています。


ファンに会計を教える場で見えた新しい応援のカタチ

国見
岡田さんは個人の活動として、「岡田会計塾」というコミュニティを主宰し、ファンの方々に会計を教える活動もされていますよね。これはどういった経緯で始められたのですか?

岡田
最初はファンの方のためというより、自分のためのトレーニングでした。若い頃、私は人前で話すのがあまり得意ではなく、メディア対応などで言葉に詰まることもあって……。そこで、せっかく勉強した会計知識をアウトプットする場を作れば、トークの練習にもなるし知識の定着にもなると考えて、少人数の勉強会を始めたのがスタートです。

国見
まさか、ご自身のトーク練習だったとは(笑)

岡田
はい。でも続けていくうちに、参加してくださるファンの方々の反応がすごく良くなって。「岡田さんじゃなかったら、会計なんて一生勉強しなかった」「重い腰が上がった」といった、嬉しい感想をいただけるようになりました。参加者は職業も年齢もバラバラですが、バスケが好きという共通点だけで繋がっている。そこで会計を学ぶことで、ファン同士のコミュニティができ、一緒に試合の応援に来てくれることもありました。

国見
ファンの方が会計知識を持つことで、スポーツの見方は変わるのでしょうか?

岡田
変わると思います。 B.LEAGUEのクラブは決算数値を公開していますが、知識がないとただの数字の羅列です。でも、少し知識があるだけで、その数字の向こうにあるストーリーが見えてくるんです。例えば、人件費が去年より大幅に増えている数字を見たとき、大型補強の実績とリンクさせればクラブが本気で優勝を狙っていることを実感できますよね。

あるいは、グッズ売上が伸びている数字を見て、自分たちが買ったタオルやTシャツがチームの経営を支えているんだと実感できる。なぜチケット代が必要なのか、フロントスタッフがスポンサー集めにどれだけ奔走しているか……そうした裏側を数字で理解することで、一緒にチームを作っていくパートナーのような相互理解が生まれるんです。

国見
なるほど。無茶なクレームを言うのではなく、「今は投資の時期だから支えよう」というポジティブな応援に変わるわけですね。

岡田
おっしゃる通りです。ファンの方々の会計リテラシーが上がり、経営視点を持って応援してくださることは、クラブにとっても非常に心強いことなんです。


社会を変える、会計とスポーツの力

国見
もう一つ、岡田さんの活動で触れておきたいのが、社会貢献活動です。「スマイルアシストプロジェクト」という障がいを持ったお子さん向けの支援活動もされていますよね。

岡田
はい。実は私自身、息子が障がいを持っているんです。それを公表しているのですが、同じ境遇の子どもたちや親御さんに、少しでも喜んでもらえればと思って、無料でバスケを教えるイベントなどを開催しています。

国見
素晴らしい活動ですね。

岡田
今は引退して選手ではなくなりましたが、元プロ選手という肩書きやスポーツの力を使えば、まだ喜んでくれる人たちがいます。会計やビジネスの話ばかりしてきましたが、スポーツには本来、理屈抜きで人を笑顔にしたり、社会課題を解決したりする力がある。

国見
私たちCPAエクセレントパートナーズとB.LEAGUEとの連携も、まさにそうありたいと願っています。単に「勉強しよう」というだけでなく、スポーツを通じて「誰もが生きやすい社会」や「個人の可能性を広げられる社会」を作っていく。そんな大きなビジョンに繋げていきたいですね。 最後に、これから何かを学びたいと考えているアスリートやファンの皆様へ、メッセージをお願いします。

岡田
アスリートの皆さんには、自分にはスポーツしかないと思い込まないでほしいですね。厳しいプロの世界で結果を出してきた皆さんは、すでに努力の天才です。そのエネルギーを別の分野に向ければ、必ず2本目、3本目の柱が立ちます。「セカンドキャリア」と構えるのではなく、現役中から別の武器を持つ「デュアルキャリア」として一歩踏み出せば、人生の選択肢は無限に広がります。

国見
私たちCPAエクセレントパートナーズも、無料学習プラットフォーム「CPAラーニング」などを通じて、その一歩を全力でサポートさせていただきます。

岡田
あれだけのコンテンツが無料というのは本当に驚きです(笑)。ファンの方々も含めてバスケ界全体の会計リテラシーが底上げされれば、日本のスポーツビジネスはもっと面白くなるはずです。これからもぜひ一緒に、新しい景色を作っていきましょう。

国見
今日は本当にありがとうございました。


トップアスリートの経験と、会計ファイナンスの知見。二つの視点を持つ岡田氏だからこそ語れる言葉の端々に、バスケ界の未来を思う熱い情熱が溢れていました。

CPAエクセレントパートナーズは、今後もB.LEAGUEと連携し、アスリートやファンの皆様が新たな一歩を踏み出すための「学び」の機会を提供し続けていきます。

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