CPAエクセレントパートナーズ×Jリーグ
- 国見健介 代表取締役
- 野々村芳和 チェアマン
- 青影宜典 執行役員
「アジアで勝ち、世界と戦う」——。こうしたビジョンのもと、競技力と組織力の両輪で進化を続けるJリーグ。2025 年4 月、JリーグとCPAエクセレントパートナーズ株式会社は、サポーティングカンパニー契約を締結しました。
締結の目的は以下の3点です。
① 希望するクラブ・リーグスタッフおよび選手に対し、会計ファイナンスの知識を学び得る機会を提供する。
② サッカー界における会計ファイナンス人材の育成・強化や金融リテラシーの向上を推進することで、Jリーグのクラブ経営基盤の強化を目指す。
③ サッカークラブの会計ファイナンスをテーマとした教材・コンテンツを共創することで、スポーツビジネスと会計ファイナンスに関心を持つ人材を増やし、スポーツ界への会計ファイナンス人材の輩出を促進する。
そこで今回は弊社代表取締役の国見健介が、Jリーグのおふたりと今回のサポーティングカンパニー契約締結について語り合います。Jリーグからは、北海道コンサドーレ札幌の社長としてクラブ経営で辣腕をふるった経験を持つ、野々村芳和チェアマン。そして、大分トリニータの経営立て直しにも尽力した、青影宜典執行役員(経営基盤本部)にも同席していただきました。
公認会計士資格スクールを中核に、会計ファイナンス分野で人材育成とキャリア支援を続けてきたCPA。今回、スポーツ界との協業に挑む背景には、強い社会的使命と未来への展望があります。経営基盤の強化、選手やスタッフのセカンドキャリア支援、そして「スポーツ×ファイナンス」による新たな価値創造──。3人の語らいの中から、ビジネスとスポーツが交差する先にある未来像が見えてきます。
(インタビュー&構成:宇都宮徹壱)

Jリーグに会計ファイナンスリテラシーが求められる理由
──まずはCPAの事業内容について、国見さんからお願いします。
国見
弊社は、会計・ファイナンス人材の生涯支援をミッションに掲げ、会計ファイナンス人材のインフラ企業を目指しています。日本にはおよそ150万人の会計・ファイナンスに関わる人材がいると推定しています。この人たちの価値というのは仕事の成果だけでなく、やりがいや社会的貢献の面で2倍にも3倍にも引き上げられる余地があると考えています。
そのための具体策として、公認会計士試験の合格支援スクールを運営しています。昨年でいえば、全国で1,603名の合格者のうち973名、実に6割以上が当スクールの受講生でした。ただし合格はゴールではなく、その後のキャリアを支えることが本質的な支援だと捉えています。
また資格の有無に関わらず、会計・ファイナンス分野で活躍されている方々に向けて、M&AやIPOなど、実務に特化した知識を体系的に学べるeラーニングのプラットフォーム「CPAラーニング」を展開しています。現在、約1600本の無料動画を公開していて、75万人の会員の皆様に実務教育のインフラとして活用いただいています。
それらの支援に加えて、転職や採用の支援も手がけていまして、会計・ファイナンス人材のキャリア全体に対して、多角的なサポートを行っています。
──ありがとうございます。つづいてJリーグチェアマンの野々村さん、今回のパートナーシップに至るまでの経緯についてお聞かせください。
野々村
CPAさんとの接点は、もともとサッカー業界やJFA(日本サッカー協会)に近いところにいらっしゃったことが大きいです。Jリーグはこれまで国内中心に活動してきましたが、今後は世界との競争の中で生き残る必要があります。その中で、会計やファイナンスといったビジネススキルが、より重要になってきています。
一般企業ではすでに取り組まれている領域ですが、サッカークラブでは、そこへの対応が遅れていたことも事実です。Jクラブがグローバルで戦っていくには、経営の根幹となる会計・ファイナンス力の強化が不可欠であり、今回の提携はその課題に対するひとつの解決策になると考えています。
──Jリーグ執行役員の青影さん。今のお話を受けて、Jクラブ経営のエキスパートとしていかがでしょうか。
青影
私はこれまでM&Aや企業再生、バリュエーションなど、財務アドバイザリー業務を中心にキャリアを積んできました。そうした縁からJクラブの支援にも関わるようになり、最初は地元のJクラブである、大分トリニータの再建に携わりました。
Jリーグクラブライセンスが導入される直前ということもあって、当時はクラブに高い会計リテラシーを持つスタッフが少ない状況でした。意識の高いクラブでは、親会社から財務に強い方が来ている例や、地元の専門家に支えられる例などもありましたが、Jリーグ特有の構造や経営特性を理解している人材は限られていました。
特にJ2やJ3クラブになると、高い会計スキルを持つ人材自体が非常に少なくて、表には出ていない経営危機寸前のクラブも複数存在していたんですよね。そうした現場に関わる中で、財務の専門家の育成や派遣の必要性を強く感じていたので、クラブライセンス制度などを通じて支援を続けてきました。
今回、CPAさんという、豊富なノウハウとコンテンツをお持ちの企業と連携することとなりました。Jクラブの経営基盤強化にとって、非常に心強く、大きな期待を寄せています。
──CPAは2001年創業とのことですが、スポーツとの最初の接点はいつ頃だったのでしょうか?
国見
当初は公認会計士の育成に特化していたため、スポーツとはまったく関係ありませんでした。ただ、「CPAラーニング」という無料の学びのプラットフォームを立ち上げたことで、専門家以外にも貢献できる領域があると実感し始めました。たとえばシングルマザーの方が、簿記を学んで経理の正社員として採用されるといった例が増えて、NPOとの連携による支援も広がっていきました。
そこからさらに領域を広げる中で3年前、クリアソン新宿というJリーグ参入を目指すクラブとの出会いがあり、クラブのビジョンに共感してスポンサーとしての関係が始まりました。その後、JFAとのご縁もいただき、アスリートのキャリア支援についての取り組みが始まりました。そこで、現役選手やクラブのスタッフに対する会計・ファイナンス支援のニーズを実感して、「これは弊社が担える社会的意義のある領域ではないか」と感じるようになりました。

フットボールの現場にも求められる「数字リテラシー」
──野々村さんは、元Jリーガーから北海道コンサドーレ札幌の社長に就任して、「ピッチとビジネスの両輪を理解する人がもっと増えるべき」という持論をお持ちでしたね。
野々村
そうですね、サッカーの現場においても、会計的な視点、数字の感覚というのは、選手からクラブまで、もっと多くの人が持つべきだと考えています。選手は個人事業主でもありますし、自分の生活を自分で守るという意味でも、ある程度の経済的な認識が必要です。今後のグローバルなスタンスで考えると、その感覚はさらに重要になると思います。
クラブには会計の専門家が必要ですし、選手もある程度の「数字リテラシー」を持つべきです。それがプレーヤーの成長にもつながるし、そうした環境をリーグとして支援できればと考えています。こうしたことに本格的に取り組んでいるリーグは、世界的にも多くはないはずで、だからこそ大事な視点だと思っています。
──青影さんが大分トリニータにいらした時代、フットボール部門が数字を意識しながら強化に取り組むのは、まだまだ難しかったのでしょうか?
青影
当時、クラブ内には、強化部門の中に経営目線で深く関与する立場の人はいませんでした。強化部と一緒に予算編成をする際、当然「良い選手を取りたい、そのために予算を増やしてほしい」という話になります。
ただ、その選手がチームにどうフィットし、どれほどの価値をもたらし、勝率にどう影響するか。難しい作業だと思いますが、そこまで数字で説明されることは、ほとんどありませんでした。私はサッカーの素人なので「もう少しわかりやすく、選手の選定理由を数字で説明してほしい」と何度も訴えました。
その過程で、私からは簡単な経営の数字をレクチャーし、逆に現場からはピッチレベルで起きていることや選手の評価観点を教えてもらう。こうした共通言語によるコミュニケーションが、理解の深まりと経営の高度化につながっていったと感じています。
──そういったコミュニケーションは、すごく大事なことだと思います。ただ、経営を言語化して強化に落とし込むのは、ちょっと難しそうです。国見さん、いかがでしょうか?
国見
おっしゃるとおりで、企業で当たり前とされる概念を、どうスポーツの世界に持ち込むかが大きなポイントです。スポーツは現場ファーストであり、選手が主役なのは間違いありませんが、ビジネス的な原理原則も融合させることも必要です。グローバルで戦うには、そうした循環をしっかり作っていくことが、より求められるフェーズに入っていると思います。
──グローバルを目指すなら、Jクラブの強化担当やGMといったフットボール部門の経営を担う人材にも新しいスキルが求められるということですね?
国見
まさにその通りです。たとえば、自クラブの選手にどれだけ投資し、育成後にいくらで売却できるか。他国の選手をどれだけで獲得し、どう価値を上げていくか。あるいはクラブが一定の成績を出すことで、賞金や収益がどのくらい増えるのか。こうした視点を強く持つことがより重要な時代になっています。Jリーグもその方向に進んではいますが、まだ弱いクラブもあると思いますので、そこは変えていく必要があると思っています。
──青影さんに質問です。Jリーグクラブライセンス制度は、導入されて10年以上が経過していますが、その効果をどう捉えていますか?
青影
制度が始まる前は、債務超過のクラブが10以上ある状態でした。財政的に苦しいクラブは、どうしても短期的な判断に偏り、「次の試合に勝つためだけの視点」選択をしがちです。
結果として、チームの中・長期での成長が難しくなる。そういった課題が、当時の大分にもあったと思います。クラブライセンス制度によって、そうした状態を未然に防げるようになりました。債務超過を未然に防ぐことで、クラブが中長期を見据えた対応を取りやすくなったのは大きな成果だったと思います。
もちろん「資金繰りが回っていれば問題ない」という意見もありましたが、現実的には借り入れに依存しすぎる体制では持続可能性が高い状態とは言えません。クラブライセンス制度があるからこそ、より健全な形で経営が行われ、中長期的な戦略が描けるようになったのだと思います。

選手の会計・ファイナンスリテラシーが高まると何が起こるか?
──野々村さんは北海道コンサドーレ札幌社長時代、東南アジア市場にも目を向けて、タイ代表のチャナティップ選手を獲得。現地のファンを取り込むことにも成功しました。今のインバウンド施策の先駆けだったと思いますし、クラブの予算規模も一気に拡大しました。この機会にぜひ伺いたいのですが、野々村さんはどうやってクラブ経営を学んだのでしょうか?
野々村
「学んだ」という意識は、正直ありません。このクラブに関わって、発展させたいという人が増えれば、自然とクラブのサイズも大きくなる。それだけの話ですよ(笑)
札幌だけじゃなく、北海道、さらにはアジア圏の人々にも仲間になってもらうには、どういう選手を獲得するかという判断も大事です。何億円かけたとしても、5年かけて十分にリターンを見込める選手なら、まったく問題ないというスタンスでした。
(社長時代は)サッカーと同じで「今の戦力でどう勝つか」を考えるような感覚的な経営でした。いい選手を集めるには、魅力的なトピックスが必要。そのためには、まず結果を出すことが大事だと考えていました。
国見
実に経営者としての感覚で、クラブ経営をされていたんだなと感じました。スポーツに限らず、売上のトップラインを毎年10%、20%と伸ばす目標を掲げることが重要です。
現状維持だけでは、アジア市場を取り込もうとしたり、新しい施策にチャレンジしたりする意識は芽生えてこないですよね。経営者だけでなく、選手にもそれが波及して、最終的には自分たちの収入にも跳ね返ってくる。そういう共通理解ができると、さらにいいと思います。
野々村
本当にそう思います。社長時代、札幌ドーム(現:大和ハウス プレミストドーム)のビジョンを使って、「今はこれしか売上がないけど、必ずここまで伸ばします」とサポーターに説明しました。当時、他クラブと比べて10億円くらいの戦力差があったんです。それでもサッカーは、サポーターが作るホームの雰囲気次第で、その差を埋められることもある。だから「そこまではみんなで頑張ろう」と。その結果、売上は毎年20%以上のペースで成長していったんだと思います。
──青影さんは当時、JリーグとしてJクラブの経営を見る立場でしたが、野々村社長時代の北海道コンサドーレ札幌をどうご覧になっていましたか?
青影
非常にチャレンジングな経営をされていたと思います。トップラインを伸ばすには、当然ながら投資も必要ですし、新しい取り組みも欠かせません。野々村さんは「学んだことはない」とおっしゃっていましたが、実際には周囲に専門知識や経験のある人たちをしっかり集めて、さらに私にもセカンドオピニオンを求めてくる。そうしたコミュニケーションが、札幌の成長につながった一因だと思います。
野々村
近くにそういう助言者がいてくれるのは、とても大事。「こうしたいけど大丈夫か?」と相談できる存在がいるだけで、ずいぶん変わるんですよ。
──Jリーグも時代とともに、経営や数字のリテラシーが高まっています。そうした中、CPAがパートナーとして加わることで、さらにどんな改善が期待できそうでしょうか?
国見
いくつかの観点で貢献できると思っています。まずはクラブ経営から少し離れて、選手一人ひとりの会計・ファイナンスリテラシーを高めること。引退後にビジネスに関わるケースは多いので、その準備としての支援が可能です。
また、選手がそうした知識を身につければ、クラブの5年後、10年後の姿を考える中で、「お金が健全に回っていないと成り立たない」という認識が広がります。それによって、ファンやサポーターも財務的な背景を共有し、試合の勝敗だけでなく「どうやってクラブの収入を増やすか」という共通認識が生まれるはずです。
それから、ファイナンスの専門家が外部から入るのも重要ですが、選手出身の方が高い専門知識を学んで、経営側に回るようなケースが増えることも期待しています。そうやって、経営層の厚みも増していく。われわれとしては、税金などの基礎的な内容から、会計やファイナンスの高度な分野まで、段階に応じた支援ができると考えています。

現役選手に意欲があれば「いつでもどこでも学べる時代」
──野々村さんが現役を引退される時、ご自身や周囲の方々のファイナンスリテラシー、つまりお金に関する知識、あるいはセカンドキャリアを見据えたプランといったものは、どれくらい意識されていたのでしょうか?
野々村
僕は全然、考えてなかったですね。だからこそ、今困っているところもあります(苦笑)。当時、多少意識していた選手もいたかもしれませんが、本当にごく少数だったと思います。むしろ外国籍の選手の方が、もっと引退後の人生について早い段階から考えていた気がします。
青影
ファイナンスリテラシーの水準については、海外と比べて日本はまだまだ低いと言わざるを得ないですね。選手教育という観点からも、大きく2つの課題があると思っています。1つは、選手がセカンドキャリアだけでなく、人生全体を豊かにしていくために、ファイナンスの基本的な知識を早い段階で身につけること。人生設計や自己実現にもつながる重要な要素です。
もう1つは、引退後にフットボールの現場に残るにしても、指導者として生計を立てていける人はごく一部。現場を離れて、フロントやビジネス側に回るには、基本的な会計知識やマネジメントスキルを獲得する必要があります。現場のセンスを持つ選手たちが、ビジネス側で活躍できるようなキャリア開発のチャンネルが必要ですし、それは引退後からでも遅くないと思います。
──国見さんは先ほど、クリアソン新宿との関わりについてお話しされていました。このクラブは、選手が現役中からビジネススキルを磨いているというユニークな取り組みをしていますが、実際にどうご覧になっていましたか?
国見
現役中からビジネスに関わることが、選手にとって「本当にいいのかどうか」という議論はあると思います。それをいったん脇に置いたとしても、まず素晴らしいと感じたのは、クラブのビジョンに対してスタッフも選手も一体となって動いている点です。
選手もビジネスサイドに関わることで、クラブとしての方向性を深く共有できているのは、非常に魅力的です。今後Jクラブになったら、また役割分担も変わってくるでしょう。レギュラークラスの選手が、サッカーと仕事との両立をするのは難しいかもしれません。
ただ、現状のフェーズにおいて選手とスタッフが一緒にクラブを作り上げていくという姿勢が、スポンサーや地域とも新しいつながりを生んでいて、経営者コミュニティのような動きも出てきています。これは、スポーツビジネスにおける新たなモデルになり得ると感じています。
──プロサッカー選手も、今の選手たちは昔と比べて練習以外の時間を有効に活用しているように感じるのですが、野々村さんの実感としてはいかがでしょうか?
野々村
確かに、そういう変化は感じます。今は昔と比べて、Jリーグのレベルも上がり、海外でプレーする選手も大きく増えた。選手自身も「海外に出ていくのが当たり前」くらいの意識を持っている。そういう背景もあって、時間の使い方が変わってきたのかもしれません。
自分の意識と時間さえあれば、いつでもどこでも学べる時代ですよね。専門学校に通わなくても、オンラインで学習できます。だからこそ、何か新しいことに挑戦してみたいけれど一歩が踏み出せないという選手には、こうした仕組みや機会がすごく大事だと思います。
国見
そうですね。今はeラーニングも含めて、誰でも自由に学習できる環境が整っています。本当に、取り組みやすい時代になってきました。あとは自分自身で、どれだけ意欲を持って行動できるか。それに尽きると思います。

リーグとして「学びの機会」を与えることの意義
──たとえば練習が終わったあと、空いた時間を有効に使って積み重ねていくことが、次のキャリアにつながるということでしょうか。
国見
そう思います。ここで少し、スポーツから離れた話をさせてください。日本で会計やファイナンスのリテラシーが、なかなか上がらない理由のひとつに「最初に簿記から入ってしまう」ことがあると思います。
大学などで最初に触れるのが、いきなり借方や貸方、あるいは試算表の記帳方法で、多くの人がつまずきます。たぶん100人中90人くらいが「自分には向いていない」と感じてしまう。一方、海外ではまず「会計思考」や「ファイナンス思考」、つまりビジネスの考え方から入って、その後に記帳の知識を学ぶ。ですから、会計やファイナンスが「面白い科目」として人気なんです。
われわれも「会計・ファイナンス人材の育成」を謳っていますが、最初に「面白い」と思えるきっかけをどう提供するかが鍵になると思っています。現役選手が学ぶ際には、クラブのお金の流れや自分の税金がどう使われているのか、そういったところから入っていくことで、自然と学ぶ意欲が高まると思います。
青影
まさに、おっしゃる通りだと思います。私もSHC(※)でファイナンス講座を担当しており、フットボールの現場やクラブ経営のストーリーを通して、資金繰りや会計の知識の重要性を短時間で伝える工夫をしています。さらに専門家の知見を取り入れながら、もっと体系的に学べるカリキュラムを目指しています。それらが最終的に、資格取得などにもつながれば理想的ですよね。
※SHC=SportsHumanCapital:スポーツ経営人材の育成と集積を目指した組織。現在卒業生は約600名に上る。
──確かに、「お金の仕組み」や「金融リテラシー」が少しでもわかると、学ぶ喜びが出てきますよね。その入口として、金融知識がまったくない現役のJリーガーでも関心を持てるような、よい導線ってあるんでしょうか?
国見
あると思います。たとえば、自分たちが関わっているクラブやリーグのお金の流れ。それは選手にとって興味を引くものだと思います。
また自分のキャリアについて、現役時代と引退後におけるお金の流れを知ることで、たとえば引退後に飲食店を始める場合でも「設備投資はいくらか」「原価や人件費の構造はどうなっているか」といったリアルな経営の話も興味深いと思います。
──それなら、選手によってはかなり刺さるテーマですよね。「ちょっと学んでみようかな」と考える、きっかけになると思います。野々村さんは、現役選手での学びの機会について、どのように考えていますか?
野々村
「サッカーから何を学ぶか」は人それぞれです。でも、次のステップに上手く進める人って、発想力があると思うんです。ファイナンスリテラシーが上がることで、考え方が変わる。それは会計の専門家になるという話ではなく、物事の捉え方が変わるんじゃないですかね。
もともと発想力がある選手もいますし、サッカーから学ぼうとする選手もいます。そして、今回のような取り組みを通じて、発想が変わるきっかけを得る選手もいるでしょう。そういった経験が、将来のチャンスの広がりにつながると思うんです。こうしたリテラシー向上の取り組みは、Jリーグにとっても大きな意義があると思います。
リーグが魅力的かどうかというのは、「成長できる場であるか」にかかっている。選手やスタッフが「ここにいると成長できる」と思えることが、リーグの価値を高める。それが20年、30年経ったとき、「Jリーグは発想力の豊かな人材を生み出す場になった」と言えるようになれば、まさに理想ですよね。
青影
その通りだと思います。会計というのは、単に「お金の流れ」だけでなく「モノの動き」についても、誰もが共通の言語で理解できるように整理したものだと思っています。選手が会計を学ぶことで、「なぜ自分がここでプレーできているのか」「なぜ報酬をもらえているのか」の解像度が上がる。それはプレーへの向き合い方にも影響するはずです。
さらに「ファン・サポーターがいてこそ、自分たちはプレーできている」と気づけば、彼らへのリスペクトも深まり、好循環が生まれる。業界全体が成長するためにも、こうした学びの機会はとても重要だと思います。

「会計×サッカー」にはものすごく可能性がある
──国見さんに質問です。CPAとJリーグが組むことによって、Jリーグがより魅力的になっていく可能性について、どうお考えですか?
国見
まず会計・ファイナンス的な観点からお話しすると、一般的には「収入がいくら」「コストがいくら」というP/L(損益計算書)に目が行きがちですが、実はそのP/Lを生み出す源泉としてのB/S(貸借対照表)、つまり資産の考え方が非常に重要です。
企業でいえば、資金調達して投資をして、その資産が収益を生む。たとえばトヨタなら、設備投資して車を作るという形です。サッカー界に置き換えると、ファンという存在や、育成選手、スタジアムなどのインフラも、将来の価値を生み出す「資産」になり得ると思います。集めたお金をどう使い、将来の収益につなげていくか。その考え方がクラブや選手、ファンにまで浸透することが、文化としての発展につながると思います。
今回、Jリーグさんとご一緒する意義は大きいと感じています。サッカーは日本全国、さらには世界に広がる市場とファン層を持つスポーツです。にもかかわらず、日本では会計やファイナンスのリテラシーがまだまだ低い。これは教育業界も同じです。海外の大学では圧倒的な資金調達力があり、より魅力的な大学にするために、研究投資やスタートアップ支援などの将来への投資にも積極的です。
──ただ、日本では「お金儲けの教育はよろしくない」といった考え方が根強いですよね?
国見
そうなんですよ。営利主義は良くないですが、お金と距離をとりすぎてしまうと、結果として競争力が下がっていってしまう。この構図を変えるためにも、Jリーグという影響力のあるコンテンツを通じて、会計やファイナンスの重要性を広く伝えることには、非常に大きな意味があると思っています。
この取り組みを通じて、専門家や関係者の自己肯定感や誇りも高まり、社会全体にもポジティブな影響が広がる可能性がある。簡単な道のりではないですが、時間をかけてやる価値のある挑戦だと思っています。
青影
先ほどから話に出ておりますように、この取り組みが選手にとってプラスになるだけでなく、社会全体へのインパクトも非常に大きいと感じています。
加えて、クラブを支えるフロントスタッフの存在も非常に重要です。すでに優秀な人材は多くいますが、Jリーグを次のステージに押し上げていくためには、既存のスタッフのレベルアップに加え、これまでJリーグに関心のなかったような他分野のプロフェッショナルにも参画してもらう必要があります。
一見すると関係がなさそうな「会計」と「サッカー」ですが、実はものすごく可能性がある。そうしたことを、私たちの取り組みを通じて社会に示すことができれば、新しい層の関心を引き込み、Jリーグの成長にもつながると感じています。
──今のお話を受けて、野々村さん、いかがでしょうか?
野々村
青影の言うことも大事だと思う一方で、「数字に表れないもの」もすごく大切だと僕は思っています。
たとえば、クラブにおける「空気感」。サポーターを含めて「勝たせる空気をどうつくるか」というのは、クラブ運営において非常に大事な要素です。その空気感は、すぐには変わらないし、変わったかどうかも明確にはわからない。でも、たとえば20年後に「日本のサッカーに関わる人たち、みんな生き生きしているよね」と言われるようになっていたら、それは空気が変わったということだと思うんです。
その空気を変える鍵のひとつが、頭の中にある「発想力」です。つまり「今まで当たり前じゃなかったことが、当たり前になっていく」という変化。選手やクラブ関係者が会計を学ぶことも大事ですが、もっと大きな「何か良くなったよね」という世界を実現するためには、こうした視点の広がりが必要だと思っています。今回の取り組みには、そういうヒントがたくさん詰まっている気がしますね。
──最後に、国見さん。今回のパートナーシップを経て、Jリーグにどんな期待をお持ちなのか、教えてください。
国見
サッカーは日本を代表するスポーツであり、国民的な浸透度も高い。世界的にも広いマーケットがあります。そうした中でJリーグが、スポーツ界全体を次の段階に進化させる、中心的な存在になると信じています。
また、私たちの業界にも「スポーツに関わりたい」と願う若手会計士が、実はたくさんいます。けれども今のところ、そうした人たちが活躍できる場面は少ない。収入面などの壁もあります。今回のようなパートナーシップが、良い循環を生み出していければ、スポーツに関わりたいと思う人たちの道も開かれ、業界全体が加速していく。そんな未来を期待しています。
